亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
どうやら敵は、あらかじめ戦場となるこの原野の周りに油か何かを撒いていた様だ。


先発隊はこちらをおびき寄せるための囮に過ぎない。




………罠にはまってしまった様だ。

こんなに明るいのでは、中で“闇溶け”など使えない。













「………火は偉大だな、オーウェン」


丸い炎の囲い。

静かに見下ろしながら、キーツは呟いた。オーウェンはこきこきと首を回す。

「………かなり油を撒いたからな……夜明けまでは消えねぇな。あれじゃあ十八番の“闇溶け”は無理だな…」

巨大な灯。あそこだけが昼の様だ。リストは目を皿の様にしてその光景を眺める。

火の囲いの中には、多数の敵が見える。しかし………あれで全部ではないだろう。

「………取り零した敵がいる筈です。周りにワイオーンを放ちますか…?」

「―――ああ。さぞ腹を空かせているだろう………食わせてやれ。不味い肉だがな…」

せせら笑うキーツを、オーウェンは一瞥した。

(………こいつ…敵さんを前にすると酷になるなぁ…)

いつもの、人の良い、優しげな雰囲気など、今はかけらも無い。

………そうでなければ、あんな恐ろしい暗殺集団を相手に指揮を振るうことなど出来ない。


………総団長。あちらの総隊長。

………可哀相な奴等だ。
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