亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
血の泡を吹いて絶命したワイオーン。

その死体の後から、トゥラの鋭く光る眼が覗いた。

弓兵は顔をしかめる。

「………なんだあのライマンは……盾にしやがった…」

「………犬らしくねぇ……ありゃあ戦術を知ってるぜ…」

「……このっ…」

再度、直線を描く矢が空を切り裂く。

しかし、トゥラは死骸と化したワイオーンを尚も盾にし、そのまま登っていった。

背後のワイオーンの群れも、丘を登って行く。

「これじゃあ埒があかねぇ……!」

「……城壁はさすがに飛び越えられない筈だ。……あまり矢を射るとワイオーンに当たっちまう……」

トゥラに多数のワイオーンが迫り来る様を見下ろしながら、一時攻撃を中断した。



腹部の傷が広がっていく。

鋭利な岩肌はトゥラの体を刻んでいった。


―――敵兵に見つかってはいけない………トゥラ…急げ………そして早く…逃げてくれ…。

城壁はもう目と鼻の先だ。分身から出ようにも、多くの敵兵がこちらを窺っている。



数匹のワイオーンが追いつき、トゥラの四肢や背中に牙を立てた。

……血が迸る。トゥラは歯を食いしばり、ワイオーンを引きずって進む。


城壁まであと少しというところで、トゥラは駆け出した。

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