亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

丘の周りには、見張りの兵士がいた。
城壁の所々空いた覗き穴からトゥラの姿を確認する。

「………敵の犬が一匹丘を登って来ているぞ!」

「―――弓兵!一時の方向に集中射撃だ!」

覗き穴から、矢を番えた弓が頭を出す。


背後にはワイオーンが迫っていた。
着々と上がって行くトゥラの後足に、ワイオーンの伸ばした爪が食い込んだ。

「―――シャアアアア!!」

トゥラは振り返り、威嚇する。
頭上から、高速の矢が飛んできた。

この時ばかりはトウェイン達が溶け込んでいる分身が役にたち、矢は分身を擦り抜けていった。

「………くそ…!どれが本物だ!」

城壁の周りに松明を灯しているが、それでも薄暗い。
荒野の炎の明かりはあまりこちらに届かない。
本物と分身の区別がつかないでいた。

………しかし、はったりが通用するのも一度だけだ。

矢尻はすぐにトゥラに向いた。

「―――放て!」

ビイィンッ、と切れのある音が重なった。

十、二十本以上の正確な矢が、トゥラに突き進む。


瞬間、トゥラは真後ろにいるワイオーンの首に噛み付き、顎の力だけでワイオーンの巨体を前に放り投げた。




全ての矢が、不幸なワイオーンにどすどすと突き刺さった。
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