亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
そんな中、車は人込みを掻き分けて進んで行った。

規則正しく並んだ石畳の広い道を、貴族の車が交差する。


「―――アレクセイ、私はここに用がある。帰りは車を頼んでおる。お前達二人は先に屋敷に戻っておれ」


そう言って、父は家来数人を連れて車から降りた。

ゲイン家はこの街の約半分を統治している。父自身よくこの街に足を運んでいる。
キーツももっと幼い頃からこの街に遊びに来ていたりした。


特に立ち寄るのが、学者や学生が多い、街の中央にある巨大な『神声塔』だ。

天高く聳えるそれは、創造神アレスを崇める塔だ。
一階部分は、アレスの書が刻まれた石碑が置かれている。
長い螺旋階段を上がるとそこは塔の最上階。
小さな空間に、水が張った銀の器がある。大昔はこれで占いや予知をしていたらしい。

キーツは地下にある巨大な書物庫が好きだった。




アレクセイを引っ張り、父には内緒で神声塔へ向かった。

家来は車で待ち惚けをくらった。






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