亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
学生の頬に赤い立て線が伸び、はらりと数本髪が落ちた。
ビイイィィン…と細身の刀身が、学生の頭の隣りで小刻みに揺れていた。
………学生は目を白黒させてその場で腰を抜かした。
「―――以上、貴族の習いについてであります。…しっかりと頭に入れておく様に。私の特別講座はここまでだ」
爽やかな笑みを浮かべ、オーウェン=ヴァンニは紳士らしく丁寧に頭を下げた。
学生達が騒ぎ立てる中をオーウェンは悠々と通り過ぎ、階段へと向かった。
螺旋階段前で、オーウェンはキーツの存在に気付いた。
視線が重なる。
………何とも言えない妙な間。
何故か緊張していたキーツに、オーウェンはあの時と同じ様な不敵な笑みを浮かべた。
ビクッ…とキーツは小動物の様に身を震わせた。
「………これはこれは……ゲイン侯爵の……………………チビガキじゃあないですか~」
………このエセ紳士……猫被るの止めたな……。
「……キーツ=ファネル=ゲインだ…」
しかめっ面でキーツは言った。
オーウェンはにんまりと笑い、脱ぎ捨てていた上着を肩に背負った。
「改めて。………第一貴族、オーウェン=ヴァンニだ」