亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
目と鼻の先に、羨ましいほど綺麗なベルトークの顔があった。
訳が分らぬまま、マリアは彼のエメラルドグリーンの瞳を見詰めていた。
………吸い込まれそうな、深い瞳。
「………ベルトーク隊…」
彼の名を、言い終えることは出来なかった。
マリアの口は動けなかった。
…否……動けないのではない。
………正面の男の唇で、塞がれたのだった。
―――柔らかい感触。
隙間の無い、合わさった互いの唇。時折、湿った吐息が漏れた。
………甘い味がした。
……身体に力が入らない。マリアは、頭が真っ白だった。
何も考えられない。何も。
ふと、ベルトークは唇を離した。
熱い吐息が互いの頬にかかる。
目の前で自分を見詰める鋭い瞳は、何処か寂しげに見えた。
ベルトークはマリアから離れ、口を拭って背を向けた。
そのまま何も言わず部屋に入り、ドアを閉めてしまった。
重苦しい金属音と共にドアが閉まり、辺りは再び静寂と化した。
マリアはしばらく動けなかった。