亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
「………良い娘だと思っていたのに……」
「とんだ女だね。村の恥さらしだよ」
「…あの大きさ…もう何ヶ月かしら」
毎日の様にひそひそと噂される、親しかった村人の声。
よく聞こえないが、内容は手にとる様に分かる。
異様な程膨らんだお腹を気遣いながら、マリアは汲んできた水を瓶に移していた。
マリアは妊娠していた。
日が経つにつれ、お腹は隠しきれない程丸みを帯び、膨らんでいった。
マリアは隠す気など無かった。
他人から何と言われようと、怒りもせず、悲しむことも無く、以前同様、笑っていた。
父親が誰なのか分からない。
妊娠に気付いた父はすぐに降ろせと言ってきたが、マリアは人生で初めて、父に怒鳴った。
嫌だ。絶対に産むから。
叱咤されようが殴られようが、マリアは断固として拒否した。
行動に移そうとした父に、刃を向けたこともあった。
唯一の味方だった母やミラは出産に同意してくれたが、少しずつ、マリアを避けていった。
この騒動の黒幕であるカザレは、子供を降ろそうとしないマリアに最初狼狽し、告げ口されることを恐れていた。
しかし、マリアは何も話さなかった。