亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
―――夜気に濡れた白い肌が、明るい暁の光に照らされた。
真上にもう満月は無い。
淡い月光とは違う、刺す様な鋭い光線が伸びる大地。
ぼろぼろだった。
手首の紐は解かれ、手足を押さえ付けていた他人の手は既にここには無かったが………動けなかった。
下腹部が痛い。
血が出ている様だ。
破れ、千切れた服から、甘い花の香りが漂う。
染み付いた香りは、本当に濃く、うっとりする程甘く、何処か残酷だった。
―――ああ………痛いなぁ。
―――全部………全部………痛いなぁ。
「―――…………馬鹿……みたい………」
マリアは切れた唇を噛み締め、声を押し殺して、泣いた。
誰かいる訳でも無いのに、静かに、恥じる様に。
悲しくなど無かった。
悔しくも無かった。
情けない訳でも無い。
ただ、痛かった。
心が、痛かった。