亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
………。

ベルトークは…彼は彼でいつもどおりの寡黙な男だった。



(………しっかし……)

ジスカは内心で深い溜め息を吐いた。




………トウェインの姿が無い。




あの機敏で時間厳守な彼女が軍議に遅刻など……ましてや今夜の軍議は総隊長同席だ。

遅れる筈が無い。

………何かあったとしか考えられない。遅刻魔の自分でさえ、半刻前にはこの椅子に座っているというのに。


(………あ……五分経った)

部屋の柱と同化している、古い、大きなごちゃごちゃした時計の針がまた一つ時を刻んだ。


………総隊長もベルトークも無言だ。怒っている……気配は、無い。総隊長は始終俯いていて、どんな表情を浮かべているのか分からないが…………少なくとも寝てはいない様だ。前にダラリと垂れた真っ白な前髪はピクリとも動かない。

………なんて奇妙な……空気。

……とにかく居心地は最悪に悪いことは確かで…。


気持ちの悪い冷や汗を流し、懸命に耐えていると……。



………ふと、ベルトークが顔を上げた。

視線は部屋の扉に注がれる。



…………微かに、扉一枚隔てた廊下の方から、一つの足音が聞こえた。

急いでいる訳でも無い単調な歩み。


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