亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
静かだった部屋の扉が、勢い良く開け放たれた。
同じくらい真っ暗な廊下から、背丈の低い人影が現れた。
「―――……随分と遅かったな」
部屋にゆっくりと入って来たトウェインを一瞥し、ベルトークは呟いた。
………遅れて来たトウェインを見たジスカは、怪訝な表情を浮かべる。
彼女の顔はこの暗がりでも映えるほど青ざめており、珠の様な汗を額に浮かべている。………酷く具合が悪そうだった。息も荒い。
頭痛でもあるのか、ずっとこめかみの辺りを手の平で覆っている。
………ジスカは声をかけようと腰を浮かした。
―――途端、肩で息をする彼女の双眸が鋭く光った。
「――――総……隊長……!」
……室内に響くトウェインの荒々しい声音。
トウェインは額の汗を拭い、奥に座る総隊長を睨み付けながら、彼の元に近寄って行った。
………入室した途端、この無礼極まりない態度。
普段のトウェインからは考えられない振る舞いだ。
呼び止めようにも、そのただならぬ奇妙な威圧感に押され、ジスカは呆然と、前を通り過ぎるトウェインを目で追うことしか出来なかった。