亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
当初、それが異質であることなど分かっていなかった。
これが普通で、当たり前。目で見なくとも充分、分かる。



………しかし、周りはそれを否定した。


見えていないのにどうして分かるんだ?

どうして杖無しで普通に歩けるんだ?

あの場所にあることが何故分かった?

誰の物なのかどうして分かる?






周囲の人間は次第に、何処かおかしい、と気付き始めた。



そう。

普通では、なかったのだ。


自分は、何かがおかしかったのだ。

決して他人とは混じり合わない何かを持っていたのだ。



………そのせいなのか何なのか、少しずつ………自分の周りには誰も近付かなくなっていった。

代わりに、石飛礫や泥、腐った果実やゴミばかりが足元に散乱する様になった。











「―――…ただいま、お母さん」

暗い夜道を進み、ダリルは頼りない灯が漏れる小さな小屋に入った。

「………お帰り…」


細い体付きの、貧弱そうな母が笑顔で振り返った。


消えかかり、いつ鎮火してもおかしくない暖炉の側にしゃがみこむ。すっかり冷たくなってしまった両手を翳す。


………と、ダリルの幼い小さな手は、細長いステッキに弾かれた。
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