亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
暖まり始め、敏感になっていた皮膚にビリビリとした痛みが生じる。

使い古されたステッキは引っ込み、軋む床を鋭く突く。
………無言でダリルは見上げた。そこにいるのが誰なのかは見えないが、はっきりと分かっていた。

「………帰って来て早々、何をしているんだい。………早く裏から薪を持ってきな。火が消えちまうよ」


聞こえるのは、棘のあるしわがれた老婆の声。

上からの視線を感じる。


「………ああ……ダリル、取ってきてちょうだい。裏に積み上げていた筈だから………」

母はちらりと一瞥して言った。
ダリルはまだ悴んだ手足を動かし、冷たい老婆の視線を感じながら外へ出た。





腰の曲がった小さな老婆は、ダリルの母方の祖母である。
孫である自分を酷く毛嫌いしているのは昔から知っていた。


家事から農作業、草むしりに雪掻き、身の回りの世話、遠くの村へのおつかい………。

しなくても良い事や面倒な仕事を事あるごとに押しつけて来るのだ。

嫌がったり、はっきりと断れば、悪態混じりの長い長い説教が後に続く。


それは非常に面倒であるし、同時に不愉快なため、ダリルは二言返事で取り掛かることにしている。


………母親は気の弱い人で、とめてくれない。
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