Distance

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近藤リリィは、1人旅客船にのり、171(イナイチ)地区へ向かっている。
周りを海で囲まれた小さな島国である171地区は、鉱山で囲まれている地形で、昔から鉱石や鉱物が多く取れる。
出稼ぎや出張で家族を支えているのであろう、多くの大人達が乗り合わせているが、高校を卒業したばかりの少女1人で船に乗っているのは異様な光景で、サーモピンクのスプリングコートに、膝上スカートの下はパンプスのリリィは1人浮いてしまっている。
リリィが住む本国とは100km程離れており、橋やトンネル、空港は整備されておらず、利用できる交通機関は旅客船だけだ。
その旅客船も1日に2便、早朝と日没前の往復のみで、孤立した地区とされている。

しかし、171地区は鉱山だけでなく、暖流の海域で漁業もさかんであり、汚されていない豊かな土も豊富で通年雨も多く降り、作物もよく育つので農業をやるにも申し分ない。
住民にとっても住み良い地域で、人気の地区である。
幾度ととリゾート開発や、学研都市の構想が提案されているが、住民や地区長がかたくなに拒み続け、全て計画倒れとなっている。そのおかげでこの美しい島が維持されているようだった。

リリィもそんな自然豊かな171地区に多くの人々と同じように「いつか住んでみたい」興味と憧れを持っていた。
「けど、まさかこんなことで行くことになるなんてなぁ...」
甲板の手すりにもたれてふぅっとため息をついたリリィの右手には細い字で「リリィへ」と宛名書きされた便箋と写真を握りしめている。

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