Distance
その文面はこうだ。
「リリィへ。
お前には20歳になったら伝えるつもりであったが、どうもわたしがそれまでにもちそうにない。
いつかリリィがまだ小学校へ行く前に連れていったことのある171地区を覚えているだろうか?
あそこにわたしの父側に遠縁の斎藤家という親族がいてな、お前も知ってるであろう「斎藤財閥」の本家が171地区にあるんだ。
その本家のご両親もお前のお母さんとお父さんとは仲が良くてなぁ、早くに無くなっているのを知っておられて、今までもお前の知らない所で家計を助けをいただいていたんだ。
そればかりでない、もう長くないわたしの変わりに家族同然、リリィの面倒を何不自由なく見ていただけるというのだよ。
いつもこの老いぼれの看病をありがとう。この手紙を見る頃はわたしはもう此処にはいないと思うが、きっと斎藤家の方々がよくしてくれる。何も心配することはないよ。」

写真は白黒で、7人の人間が笑顔でこちらを見ている。
まだ元気なリリィの祖父に
父と母。そしてその斎藤財閥の6代目の主人とその妻。
その5人の前には5歳くらいのあどけない笑顔のリリィと、その横には6代目の息子であろう、リリィよりは5つ上くらいのカメラに緊張しているような表情だが、さらさらの髪で、整った顔立ちの少年が映っている。

「こんな古い写真渡されてもなぁ...全然記憶にないよ。他に最近の写真はなかったのかな?」
どうやら171地区に降り立ったのはリリィはこの1度だけある。そしてその土地で、リリィの両親は事故で亡くなってしまった。
と祖父から聞いている。
恐らく、あまりのショックでその日から前の記憶、両親の記憶がぽっかりと穴のように無くなってしまい、そのまま現在に至っている。
リリィにとっては大好きな祖父と二人の生活が全てで、祖父が永い病に伏しても、それなりに幸せに暮らしているつもりであった。
しかし、祖父が病死した今、リリィは本当に1人になってしまったので、171地区に向かうしか他ならない。
高校までは残り数ヶ月だったので、なんとか卒業できた。これからは171地区で斎藤財閥の娘として生活をしていくことになる。
友達には「あのイナイチ地区の斎藤財閥!?チョーお嬢様じゃん!」と散々羨ましがられた。

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