Distance
「あちらが斎藤本家の屋敷でございます。」

(おとぎ話に出てくるお城みたい...素敵)

クルミの運転する車を、入口にある赤外線カメラが察知したらしく、西洋風の重たい門が軋んだ音を立てて開いて、車はその中を進む。
そこから建物まで更に500mほど離れている。
迎賓館のような玄関の前で車は止まり、クルミは後部座席を開け、リリィを屋敷の中へ案内した。


広いエントランスホールを抜け、階段を進んだ。
人の気配はなく静まり返っている。
主人や妻、息子は不在なのだろうか。

「まずはリリィ様のお部屋へご案内します。長い移動で疲れているでしょう、お茶をお持ち致します。」

2階に上がると広い廊下に出た。個室ののドアが6つ確認できた。

「2階は基本的に我々は使用しておりません。以前、ご主人様の弟のキリヤ様家族が使用しておりましたが、今は全て空室ですのでリリィ様がご自由にお使いください。奥の扉から化粧室とバスルーム、ランドリールーム、娯楽室、ゲストルームが3部屋ございます。リリィ様は娯楽室の隣を使われるといいでしょう。」

「わぁ、なんて広い...」

通された部屋は15帖程であろう、大きな部屋だった。
天蓋付きのベッドに、観音開きのアンティークのドレッサー、カウチソファにガラスのローテーブルの上にはピンクの薔薇の花。乙女の心をくすぐるインテリアばかり。
大きな窓はテラスにつながっており、小さなテーブルと椅子がある。



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