Distance

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 日没になり、船は島に着いた。
日が落ちて一気に気温が下がったようだ、スプリングコートの隙間からの風がひんやりする。
乗客はそれぞれの寝床にそそくさと散って行く。
リリィも船を降りると、黒塗りのいかにも高級そうな車が道路に横付けされていた。
運転席から出て来ただんせいはリリィの祖父より一回りくらい若く、「きびきびした初老」といった出で立ちであった。

「近藤リリィ様ですね、ご主人様から伺っております。わたくしは斎藤財閥本家の執事を申し使わしております、クルミと申します。」

ご主人様...執事とかって本当にあるんだ。とリリィはしみじみ関心していた。

「...どうぞお乗りください邸宅までここから離れておりますので。」

と、クルミと名乗る男は後部座席を静かに開けた。
リリィは少しの荷物をトランクケースに預け、ふかふかの高級車のシートに乗った。

「あの、そのお屋敷には何人くらいの人が生活されているんですか?」

「今は4人だけです、ご主人様と奥様、そして1人息子で跡継ぎでありますセイ様とわたくしです。
数年前まではご主人様のご兄弟家族と同居しておられましたが、皆様島を離れて、本国で事業をされておられます。お屋敷は大きいですが今は少しもの寂びしげな感じになりましてね、リリィ様がいらっしゃるのを皆さんとても楽しみにされていますよ」

 どうやら私が歓迎されているのは間違いないらしい。リリィは少しだけ安堵した。
車は発進してから10分ほど走った。坂道を登り続けており、鉱山の方へ向かっているようだった。

「この当たりは鉱山でしたが、全て掘り尽くしてしまったのです。我々斎藤財閥が採り過ぎたのです。残っている鉱物は一定料以上は採掘してはいけない条例もつくられました。もう鉱山業は下火ですので別の事業をやられております。一部を埋め立てて、新たな入居希望社のための土地とされました。」

あまり興味がなかったので相づちもほどほどに、外の景色を眺めていた。
 もうあたりはすっかり真っ暗で、山道は街頭や町の灯りも見えない。地理が分からないリリィにとってはもののけの道のようだった。
丘陵地帯を越えたところで、大きな洋館が現れた。
その周りの道は白熱灯が等間隔に設置されており、先程のもののけの道とは印象が変わって、よく整備されている、小さなテーマパークに入ってきた、という感じ。
とても美しい赤いレンガの壁の建物とキレイに整えられた庭がある屋敷が見えた。





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