Distance
リリィはそおっとソファに腰掛け、暖かいジャスミンティーを頂いた。
「おいしい...おじいちゃんも大好きだったジャスミンティーだ...」

 今まで自分の父と母のことは気にしないように生きて来た。昔おじいちゃんに聞いても
「乗っていた帰りの旅客船が火災事故にあったんだよ。おじいちゃんとリリィは救助されたんだけど、二人は助からなかったんだ...」
と悲しそうな顔をして言うので、それ以上何も聞けなかった。
 家族写真も探したが、事故以前の写真はまるで処分されたかのように見つからなかった。
しかも思い出そうとすると、それを咎めるかのように、酷い頭痛やめまいが起こったりするので、思い出す事をリリィは放棄していた。
でも、本当の所、もっと色々なエピソードを聞きたかった。
 13年前に、171地区でこの斎藤家に出会って、家族と何を話したりこのセイという息子と何をして遊んだりしたんだろうとか。
小さいことでもいい、自分と両親が「確かに一緒に生きていた」証を純粋に知りたかった。
両親を唯一知っている人物に話を聞きたかった。

リリィは緊張感から解放されてベットへと倒れ込んだ。
そのまま静かな寝息を立てた。
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