君とこんぺいとう
定時になると
帰り支度をした松田さんが迎えに来た。

「さ、行きましょう!」

私は逃れる理由を見つけられないまま
渋々3人に同行した。

花火大会の会場に着くと
ものすごい人混みだった。

「人が多すぎて、はぐれそうだな」

里中がそう言うと
すかさず松田さんは里中の腕につかまった。

「私、はぐれないようにつかまってます」

2人を見たくなくてあらぬところを見ていた私は
あやうくはぐれそうになって田代くんに発見された。

「小川、どこ行こうとしてるんだよ。
こっちだってば」

田代くんはそう言うと自然に私の手を握った。

「ちょっと一人で歩けるから…」

そう言って、手を離そうとする私に
田代くんは言った。

「迷子になったらどうする?
いいから、大人しく言うこと聞いてろって」

つながれた手をほどいてもらえず
私が困って顔を上げた時、里中と目が合った。

里中はわずかに目を細めたあと
すぐに目をそらした。

(何だろう…?)

彼の視線が気になりつつも、人ごみに慣れていない私は
田代くんに引きずられるように先に進んだ。

私たちは、やっとのことで
空いている場所を見つけると陣取った。

「小川、大丈夫か?」

里中はぐったりした私を見て言った。

「うん…人混みがすごくてびっくりしただけ…」

「何か飲み物買ってくる」

里中はそう言うと田代くんと飲み物を買いに行った。

「小川さん、あのお願いがあるんですけど」

松田さんは私と2人になると
急に真面目な顔になって言った。

「里中さんに彼女とかいるか聞いてもらえませんか?」

私は以前、里中が彼女はいないと言っていたのを思い出した。

「いないみたいだけど」

「ほんとですか?!
好きな人とかもいないんでしょうか?」

「さあ…そこまでは知らない」

松田さんは身を乗り出して私に言った。

「そこ、探ってください。
いなかったら、私告白します!」

「なんで私が…」

私は言いかけると松田さんはさえぎった。

「だって、小川さんと里中さんは同級生でしょ?」

「でも特に仲良しってわけじゃ…」

「いいから、お願いしますね。
帰るまでに聞いてください」

有無を言わせない松田さんの雰囲気にのまれ
私は厄介な役目を仰せつかってしまったのだった。


< 24 / 138 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop