鶴見の鳩
それから二、三分の後であろうか
。
電車は運河を渡っていた。そこに
は鴨の親子が三羽の隊列を組み、
海の方向へ水上を滑るように泳い
でいた。
私は人もまばらな車内に座ってい
た。音のない世界に、ただ車外か
ら線路が軋む音だけがこだまして
いた。季節柄、車内は暖房も冷房
もついてはいなかった。それでも
車内には、上りの通勤客の熱気が
立ち込めていた。
しかし私の心には、まるで鶴見の
駅に置き忘れたかのように、ぽっ
かりと穴が空いていた。そしてそ
の穴に、神無月の風が容赦なく吹
き付けていた。
。
電車は運河を渡っていた。そこに
は鴨の親子が三羽の隊列を組み、
海の方向へ水上を滑るように泳い
でいた。
私は人もまばらな車内に座ってい
た。音のない世界に、ただ車外か
ら線路が軋む音だけがこだまして
いた。季節柄、車内は暖房も冷房
もついてはいなかった。それでも
車内には、上りの通勤客の熱気が
立ち込めていた。
しかし私の心には、まるで鶴見の
駅に置き忘れたかのように、ぽっ
かりと穴が空いていた。そしてそ
の穴に、神無月の風が容赦なく吹
き付けていた。


