鶴見の鳩
私はある種得意な心持ちでその鳩

の輪を見下ろしていた。少年たち

に奪われた物を奪い返した気持ち

になったからだ。


その時だった。

あの、私が恋焦がれていた漆黒の

鳩が、とことこと小走りで私に近

寄ってくるではないか。

突然のことで、私は胸が高鳴るの

も忘れて喰い入るように彼に見入

った。

彼はビスケットの輪に加わるでも

なく、かと言って離れる訳でもな

く、周囲を歩き回っていた。だが

次第に輪に近づいたと思うと、そ

の中に一気に首を埋めたのだ。

だがその瞬間、私は眼を疑った。

その鳩の群れは、かの美しい濃黒

の羽根を持つ鳩を輪から弾き出し

たのだ。

突然のことで、彼は何が何だかわ

からない気色だった。しかしこの

勇気ある黒い鳩は、再びの突入を

試みたのだった。が、また弾き出

される。入る。弾かれる。突っ込

む。追い出される。その間も、中

のビスケットは消えて行く。

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