今夜、俺のトナリで眠りなよ
―一樹side―
 すやすやと桜子の寝息が聞こえてくると、俺は身体を起こした。

 桜子の前髪をかきあげて、額にキスを落とした。

 めちゃくちゃに抱いてやるって思ってたのにな。

 出来なかった。

「寝顔、可愛いね」と、俺は呟くとベッドから出た。

 皺のついたシャツを引っ張りながら、床に落ちているフリースと掴んで、桜子の部屋を後にした。

 廊下に出れば、玄関で靴を脱いでいる兄貴と目が合った。

「一樹、なんでそこから出て来てるの? それに桜子の靴が……」

 俺はフッと笑うと、フリースを羽織った。

「おかえり。兄貴」

 兄貴の顔が、怖くなる。俺を睨みつけて、家にあがった。
< 110 / 135 >

この作品をシェア

pagetop