今夜、俺のトナリで眠りなよ
「どうせ見ちまったんだろ。兄貴の浮気現場。じゃなきゃ、社長の奥さんがパーティ会場を飛び出して部屋に戻ってくるはずがねえもんな」

「見てない」

「いや、見たね。じゃなきゃ、血相変えて部屋に飛び込んでくるはずねえ。動揺しすぎて、俺にキスされても直ぐに抵抗も出来なかったし」

「見てない! 私は何も見てない。見てないのよ。それにキスもされてない」

 私はラメの入ったピンクのハイピールを脱ぎすてると、膝を抱えて丸まった。

「別に、強く否定しなくてもいいだろ。兄貴の浮気なんて今に始まったことじゃねえし」

 シーツの衣擦れが聞こえると、ツーっと背中がくすぐったくなる。

 一樹君が後ろから、私の背中を指でなぞったのだろう。

「なあ。今日が初めてじゃないってことくらい。目撃したならわかるだろ? 常習犯だって」

「そんなのわからない。だって私は見てないもの」

「強情なヤツ。意地を張って見なかったことにする意味がわからねえ」

 一樹君が身体の向きを変えたのだろう。ベッドのスプリングが上下に揺れた。

 少しだけ頭を動かして、一樹君の体勢を確認する。

 一樹君は私に背を向けて、横になっていた。

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