今までの自分にサヨナラを


だけど、一つだけ見えたものに、また恥ずかしさが込み上げてくる。


彼の耳も赤くなっていたからだ。


たった三文字の名前を呼ぶのに、一体どれだけのエネルギーを使うんだろう――。


大事な人の名前を呼ぶことがこんなに難しいなんて知らなかった。


こんな注文、もう受けられない。


恥ずかしさで頬も指先も燃えそうで、おかしくなる――。


「そっ、それより――!」


私は何故か無鉄砲に声を張っていた。


今の状況を打開したい一心で。


でも、その後に続ける言葉など見つけてあるわけもなく、驚いた彼の視線が刺さって痛い。


私は焦って言葉を探しながら、部屋を見渡した――。



< 183 / 326 >

この作品をシェア

pagetop