ふわふわ
 ホテルの明るい部屋に入ったら、少しぎこちない空気が流れた。コートを脱ぐこともできないくらい緊張してしまっていた。こんなことは初めてだったから。
「ごめん、緊張しちゃって……」
 正直にそう言う私を、とても優しい目で見てくれている。包まれるみたいだ。ゆっくりと、私の手を握ったまま、しばらくいてくれた。

 それから、
「キスしてもいい?」
 その声だけで、もう心が震えた。

 とろけるようなキス。
 タクとのキスに、もうこんなに震えることはない。

 彼の長い指は魔法使いみたいだ。どうかこのままで……。解けないで……。

 私の長い髪が、彼の胸の上に垂れて、彼がくすぐったそうに笑った。彼が、長い髪を忘れられなくなればいいのに。彼女のショートヘアを思い浮かべた。

「ずっと、好きだったの……」
 やっと言えた。長かった。

 彼は、私の長い髪をなでた。
「うん……」
 そして、もう一度キス。
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