会いたい
久しぶりに家に帰ったと思ったらこれだ。
母はいつだって自分で何でも勝手に決めて、私には事後承諾なのだ。
再婚のことだってそうだった。
父親が死んで、1年も経ってなかった。
住所も、苗字だって、勝手に変えられた。
もちろん、母だってひとりの人間だ。幸せになりたいと思うのは、当たり前のことだ。それを、娘だからといって私が邪魔できるわけもない。
でも、それと同じように私の幸せは私にしか決められない。誰にも、決められないのだ。
それが何故、この人にはわからないのだろう。
「もう、三年も経ったんだよ。忘れなさい、あの人のことは」
靴を履き終えた時、背後で、残酷な声がした。
私は振り返らなかった。
「死んでしまった人を、いつまでも思ってたって仕方ないんだよ。あんたは、生きてるんだから。これから先、独りで生きていくなんてことできっこないんだから」
さもわかりきったように言いきる母の傲慢さに腹が立った。
確かに、母はそうだろう。
でも私は違う。私は母ではないもの。全てを同じに考えるなんてできっこない。
それなのに何故、自分の考えだけが絶対のように、自分だけが正しいように、言い切れるのだろう。
私でもないのに。私の気持ちなんて、全然わかろうとしないくせに。
「おまえのためを思って、言ってるんだよ」
嘘つき。
私のために、そう言う?
それなら、私の気持ちなんてどうでもいいの?
こんなにあなたの言葉で傷ついているのに、それでも私のためだというの!?
そう叫びたかった。
三年も。
あなたはそう言うけれど。
まだ三年よ。私がこれから生きていく長い人生の中で、まだ、たった三年だ。
私のためを思って?
そう言えば、自分が正しいとでも思っているのだろうか?
免罪符のような言葉を掲げて、私の心を踏みつける。
そんな独り善がりな思いやりが、どれほど私を傷つけてきたか、そんなこと思いもしないのだ。
いつだって、私のことなんて考えてはいないくせにこの人は優しい母親のふりをする。
私を本当にわかってくれたのは、透だけだった。透しか、いなかった。
透がいればよかった。
透だけでよかったのに、いつも私にはいらない人ばかり残る。