会いたい

「――」

 私は黙っていた。
 大声で心の中に芽生えたやりきれなさを叫びたかった。
 でも、できなかった。
 叫ぶ前に泣いてしまう。
 泣き顔だけは、見せたくなかった。
 私は黙って家を出た。
 どこか、一人になれるところへ行かなければ。
 けれど、この密集した住宅街ではそれは望めない。
 こうしていても、どこかしらに人がいる。
 私は唇を噛みしめ、ついでに自分の手の甲をつねりながら、北へと向かった。

 住宅街を外れた空き家。

 あそこへ行こう。
 あそこなら、誰も滅多に入って来るまい。
 あの噂が出始めた時は、野次馬根性で来てた人はいるだろうけど、昼日中に幽霊を見にくる物好きはいないだろう。
 あそこなら、きっと思いきり泣いても構わない。

 透がいた、あの場所でなら――
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