会いたい

 携帯が、鳴った。

「――」

 また母からだろうか。
 私は躊躇したが、携帯を手にとった。見知らぬ番号が映る。
 誰からだろう。

「――はい」

 だが携帯の向こうから聞こえた声は、私の予想外だった。
 高木さんだった。

「た、高木さん?」

『お早ようございます。って寝てましたよね。お加減はいかがですか』

 明るい声が耳に届く。この人は、他人を安心させるような話し方をする。

「だいぶいいです。今日は本当に失礼しました。ごめんなさい」

『いいえ。謝らないでください。そんなこと聞くために電話したんじゃないですから』

 さらりとした口調は、私の気分を軽くした。この人は、いい人だ。

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