会いたい

『突然ですけど、今度の土曜、お暇ですか』

「え? あ、暇、ですけど」

『食事でもどうですか。ここで印象づけておかないと忘れられそうですから』

 言い方に、私は笑ってしまった。

「そんなことないですよ」

『そうですか。俺、患者さんになかなか覚えてもらえないんですよ。印象薄いんじゃないかって悩んでます』

「本当に大丈夫ですよ。私、ちゃんと覚えてます。土曜日も、あなたの前通り過ぎたりしませんから安心してください」

『いいんですか』

「はい。何時ですか」

『じゃあ、11時に車で迎えにいきます』

「はい」

 受話器をおいた途端、容赦なく沈黙がおりてきて、私の心はまた沈みだした。

「――」

 どうしてだろう。どうしてこんなに気分が晴れないんだろう。

「これで、いいのよね」

 自信はなかった。
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