丹朱の橋、葉桜のころ
そろそろと股ぐらへ目をやるが、やはり、ない。

まばたきをしてみても同じ、片目をつむってみても同じ。どうやら、排尿に支障がない程度には残されているらしい。

くたくたになった朱色の座布団の上で姿勢を変えて考えた。

幾筋かの光が射し、ほこりが安穏と舞う以外に動くものはない。木造りのカウンターの上にも、その対面の壁に沿って置かれた四脚のテーブルの上にも、それぞれのイスが逆さに積まれている。

「そば処・流水庵」のガランとした店内は、静寂を孕んでいた。

その一番奥、本棚の横にあるイスがボクの指定席だ。
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