愛・地獄変 [父娘の哀情物語り]
「妙子!」
 きつい声が、飛んでまいりました。
又しても、妻の邪魔が入りました。
あ、いえいえ、とんでもございません。
良かったのでございます。
でなければ・・。

「お父さん、良いって言ってくれたわよ!」と、娘が言いますです。
いえいえ、とんでもございません。
わたくしは、そのようなことなど申しておりませんです。
とんでもないことでございます。
しかし娘は、
「ねーえ、お父さん。許してくれたわよね。
うん、って頷いてくれたわよね。」と、わたくしの背中から離れませんです。
自分の体を左右に揺らせております。
妙子、妙子や。止めておくれよ、いや止めないでおくれ。

「ほんとなんですか!」
 それはもう阿修羅の如き恐ろしい形相で、わたくしめを睨みつけますです。
「いや、あの、その・・」
 しどろもどろの返事しかできないわたくしでございましたが、
「とに角、わたし、参加するから。
費用は出してくれなくてもいい。
お友だちにでも借りてでも、何とかするから。」と、娘の妙子は強情を張りましたです。

わたくしめが、妙子に責められている錯覚に陥ってしまいますです、はい。
「分かったよ、分かったから。
銭箱の中から持って行きなさい。
友だちに借りるだなんて、そんなことはさせられないよ。」

「ありがとう、お父さん。大好きよ!」
 あぁ、妻がその場に居なければどうなっていたことか・・。
妙子の頬がわたくしの頬にぴったりとくっついて。
妙子が声を出すたびに、わたくしの頬に妙子の唇が・・。
 失礼しました、申し訳ございません。
お話を続けましょうかな。

正直のところは、私も内心では反対でございました。
いえ、妻の申すような心配事からではございません。
私の反対の理由は、妻と二人だけの日々が苦痛なのでございます。
又、娘と離れての日々を過ごすことが、苦痛であり淋しくもあるのでございます。

 己の都合だけからの反対心でございました。
自己中心的だとのご指摘、その通りでございます。
返す言葉もございません。
しかし、その頃の私には、娘の居ない日々は考えられなくなっておりました。
正直のところ、毎日の学校ですら苦痛でございました。
片時も離したくない、そんな気持ちでございました。
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