愛・地獄変 [父娘の哀情物語り]
 四日目のことでございます。
娘が、突然帰ってまいりました。
思いつめた表情で、ただいまのひと言もございません。
さっさと二階の自室に閉じこもったのでございます。
日がな一日泣きじゃくるのでございます。
理由を問いただしても、唯々泣きじゃくるばかりでございます。

娘の顔を見たいと願うわたくしめですが、何度声をかけても
「放っといて!お父さんも嫌いよ!」という返事。
もう涙がでてまいります。
その点、女は冷たいものでございます。
素知らぬ顔をしております。
「今は、何を言っても無駄ですよ。」と、取り合いません。
お友達と喧嘩でもしたのでしょ、と言うのです。
しかし不思議なもので、そのように言われますとそんな気がしてくるのでございます。

 ところが、事はそんな生易しい事態ではございませんでした。
娘を追いかけるように顧問の先生が見えたのでございます。
畳に頭をこすり付けての謝罪でございます。
申し訳ございません申し訳ございません、と唯々謝られるだけでございます。
わたくし、気が気でなりません。
妻ですか?さすがに妻も、顔を曇らせております。
いえ、曇らせるどころではありません。
見る見る顔が紅潮して、怒鳴りつけましてございます。

「何があったのか、話してください!」
「実は・・夜の散歩に、二人で出かけたらしいのです。
いえ、あたくし、承知しておりません
。どころか、禁じていました。
一キロ足らずの湖に、月を観に行ったとか。
幻想的だと他の者が申したらしく、それで・・」
「夜はどのように?先生は見回りとかは?
まあ年頃の娘ですからね、そこは。」
「当日の注意点の整理ですとか、翌日の練習メニューですとか、そういったことを・・」
「要するに、生徒さんたちの自主性に任せていた、と言うことですね?」
「そ、その通りでございます。
生徒達の自主性に任せておりました。」
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