愛・地獄変 [父娘の哀情物語り]
 どうやら仲の良い友達と夜の散歩中に、複数の男達に襲われたようでございます。
幸いにもご友人がうまく逃げだして、助けを求めたとの事。
未遂に終わったとはいえ、そのショックは大きく、失意の中立ち戻ってきたのでございます。
しかし妻は、はなから犯されたものと決めつけて、あろうことか娘を非難致します。
やれ医者だ、警察に訴える、と大騒ぎして、娘の純真な心を傷つけるのでございます。

 私は、あまりの妻の狂乱ぶりに呆気にとられておりました。
が、何とか妻をたしなめて、その騒ぎを治めました。
私にしても、はらわたの煮えくりかえる思いではございました。
が、娘の将来のことを考えて、この騒ぎはそれで終わりにしたのでございます。

 しかし妻と私の間に、このことにより埋めようのない亀裂が生じてしまったことは、改めて申すまでもございますまい。
私は、妻の口汚い罵りを一晩中聞かされました。
が、私の耳には届いておりません。
唯々、娘のことばかりを考えておりました。
成熟し始めた娘の体つきや細やかな仕草。
それらに歓喜の情にふるえていた折りでもあり、唯々聞き入っておりました。
半狂乱の妻の罵倒は、夜明けまで続きましたのでございます。

 正直に申し上げましょう。
それ以来しばらくの間、毎夜の如く悪夢に悩まされました。
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