愛・地獄変 [父娘の哀情物語り]
 林の中を逃げ回る娘。
追いかけまわす数人の男共。
右に左にと逃げ回る娘に、三方四方から男共が迫るのでございます。
娘の足は擦り傷だらけになり、赤い血が滲んでおります。
 木々の枝にブラウスが破られ、次第に白い柔肌が露わになっていくのでございます。
男共は、そんな娘の露わになっていく肌に、より凶暴になっていきますです。

 とうとう一人の男に掴まり、落ち葉の上に押し倒されてしまいます。
「いや、いやぁ!」そんな娘の叫び声は、男共の劣情をそそらずにはいません。
「やめて、やめてぇ!」娘の懇願の声も、男共の嬌声にかき消されてしまいます。
いえ、娘の懇願の声が、更に男共の凶暴さに火を点けるのでございます。
 何ということでしようか。
娘が、私の娘が・・・。
男共に陵辱されているのでございます
。泥で汚れた手が、ごつごつとした手が、娘の漆黒の髪を掴んでおります。
気も狂わんばかりでございます。

「待てっ!待てっ!待ってくれ!
それだけは、止めてくれ。
今までのことは、許そう。
水に流そう。後生だから。
それだけは、それだけは、止めてくれぇぃぃ!」
 断じて許すことはできません。
八つ裂きにしても足りない男共でございます。
もう私には気力がございません。
お話しする気力が、ございません。
もう、このまま死にたい思いでございます。
まさしく地獄でございます。

 地獄?そう、地獄はこれからでございました。
実は不思議なことに、男共には顔がなかったのでございます。
勿論、その男共を私は知りません。
見たことがありません。
だから顔が無い、そうも思えるのではございます。
 しかし、・・・。
そうですか、お気づきですか?
ご聡明なあなた様は、全てお見通しでございますか・・。

 申し訳ありません!申し訳ありません!
私は、犬畜生にも劣る人間でございます。
殺してください、私をこの場で殺してください。
この大罪人の、人非人を!
そうなんでございます、男共は、全て、私の顔を持っていたのでございます。
私の顔を・・・持っていたのでございます。

 蝿が飛んでおります、銀蝿でございます。
あの野糞にたかる、汚わらしい銀蝿でございます。
ぷーんぷーんと音も五月蝿く、飛び交っております。
死人にも似たわたくしめの周りを、飛び交っております。
手で払いのけるのでございますが、中々に立ち去ろうと致しません。

 立ち去らない?虫けらに立ち去らないなどという言葉を使うとは。
ふふふ、気が狂れたのかもしれませんな。
実は、実は・・、その銀蝿・・。
どうぞ耳を塞いでくださいまし、後生でございますから。
おぞましいことに、このわたくしめの顔を持っているのでございます。
何と、何と言うことか、このわたしが、銀蝿などと!
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