死が二人を分かつまで
「今になって思えば、私が勇気を出せば良かったんですよね。むしろ血の繋がりのない私が、主人に遠慮などせず、正々堂々、さとしちゃんを可愛がってあげれば良かった」


瞳も潤いを増して来た。


「津田さん。私達があの子を真っ直ぐに育てたって、言ってくれましたよね。でも、それは違います。大人達がオロオロしている間に、さとしちゃんは記憶の中の小夜子さんを目標に、自分で大きくなっていったんです」


知子は傍らのバッグからハンカチを取り出すと、下を向いて涙を拭いた。


「そんな複雑な環境で育ったのに…。充分な愛情を与えてあげられなかったのに、あの子は人様に愛される存在になったんですね……」


「さとし君はパンドラの箱なんでしょう?」


え?と声を発しながら知子は顔を上げ、津田と視線を合わせた。


「色々と辛い思いをしたかもしれないけれど、あの子は前を向いて歩いて来た。自分の中に希望の光が存在する事を知っていたからです。それを気付かせてあげたのは、やはりあなた達だったと、私は思いますがね」


知子は静かにその言葉に耳を傾けていたが、もう一度ハンカチで涙を拭うと、姿勢を正し、改めて津田に向き合った。
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