死が二人を分かつまで
津田と視線を合わせると、知子は自嘲気味に笑った。


「主人一人に振り回されて、情けないと思われるでしょうけど……」


「いえ」


さとしが引き取られた頃は、きっと祖父はすでに隠居の身となっていて、長男である広が小谷家を取り仕切っていたのだろう。


戦前生まれ、そしてその世代に育てられた者の中には、一家の長が絶大なる権限を持つのだという考えが根強く残っているものだ。


彼らも、その因習に従ってしまったのだろう。


「そうこうするうちに義父が亡くなり、義母が亡くなり、主人はますます居丈高で、気難しくなっていきました」


だろうな、と津田は心の中で頷く。


「小谷家にとって、さとしちゃんはパンドラの箱のような存在だったんです。若くして亡くなった小夜子さんの人生を思い起こさせ、主人の葛藤を引き起こし、愛しいけれど、素直に愛する事ができない存在……。あの子を見る事で、他の負の感情も浮き彫りになって来てしまうんです。さとしちゃんには何の罪もないのに」


言うごとに、知子の声はだんだん震えて来た。
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