死が二人を分かつまで



「さとし」


小夜子は布団に横たわったまま、枕元に居る愛しい息子の名前を呼んだ。


小夜子に背を向け、お気に入りの魚のクッションに一生懸命話し掛けていたさとしが、体の向きを変える。


「えいっ」


陽気な声を発しながら、小夜子は自分の顔を覗き込もうとしていたさとしの腕を取り、布団の中へと引きずり込んだ。


「やーん」


突然の行為に驚きつつも、さとしはキャッキャッとはしゃぎながらクッション越しに小夜子に抱き付く。


「さ~とし」


「なぁに?おかあさん」


「んふふ。ただ呼んだだけ」


言いながら、小夜子はさとしの後頭部をやさしく撫でた。


柔らかく、サラサラとした頭髪が指先に心地よく絡みつく。


「ごめんね。せっかくのお休みなのに、どこにも連れて行ってあげられなくて…」


「ううん。おかあさん、おしごとで疲れちゃったんでしょ?だから、いいの」


小夜子の腕の中、しっかりと視線を合わせ、さとしはニコッ、と微笑んだ。


「それに、トトちゃんがいっしょだから、ボクぜんぜんさびしくないもん」


『トト』というのはさとしが先ほどから大切そうに抱いているクッションの事である。
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