死が二人を分かつまで
「おかあさん、ありがとう~」


家に帰る道すがら、さとしはトトを抱え、はしゃぎながら何度も何度も礼を述べた。


クッションならば実用的なものだし、たまには予定外の買物をしても罰は当たらないだろう、と小夜子は考えた。


何しろ、とても安い買い物だったから。


もともとが安価である上に、さらに半額の値札が付いていたのだ。


明らかに売れ残りの、処分品である。


それでもさとしはそれを手に入れられたことに心から感謝し、嬉しそうに笑っていた。


慈しむように、クッションを手中に納めていた。


世の中には何万円もするゲーム機や流行りのおもちゃを、当たり前のように買い与えられている子どももいるというのに。


その時胸に押し寄せた切なさが再現されて、小夜子はさとしを抱く腕に力を込めた。


「おかあさん、苦しいの?」


小夜子の指先の震えを感知したらしいさとしが、心配そうに声をかけて来た。


最近小夜子は休みの日に、家で寝込む事が多くなった。


普段の睡眠だけでは中々仕事の疲れが取れない。
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