死が二人を分かつまで
「仕事に夢中」という姿勢を見せておけば、世間との接触が少なくても周りは納得してくれる。


「お仕事がお忙しそうだもの、仕方ないわよね。男の人はそれで良いのよ」という具合いに。


とはいえ、すべてのしがらみから逃れられるわけではないが。

社内の人間との業務以外のコミュニケーションはもちろん、必要最低限の近所との係わり合いも持たなくてはならないし、その中の、いかにも世話好きそうな女性が仕掛けてくる見合い話を、どのように断ろうかと頭を悩ませる状況に追い込まれることもあった。


さほど強引なわけではないが、まだまだ諦めてくれそうにない。


しかし裏を返せば、そういう話を持ちかけられるということは、信頼はされているという証である。


他人との密接な係わり合いも面倒だが、敵をつくるのはさらに面倒な事だ。


そこそこ好感をもたれるように、しかし、自分の領域に土足で踏み込まれたりしないように、せいぜい気をつけていくしかない、と進藤は思っている。


『一つ確かなことは、自分はこれからも独身を通すであろうということ』

進藤は一人、心の中で呟いた。



『あの人以上に愛せる女性はきっと、これからも一生、現れはしないから……』
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