死が二人を分かつまで
もちろん、何の特徴もなく声楽の教材のような歌い方で若者の歌を歌われては、聞いているほうは白けてしまうだろう。


しかし、彼の歌声はシンプルでありながら、聞く者を惹きつける何ともいえない色気があった。


『これは決まりだな』


その後、またもや昔流行した男女の別れをテーマにした曲を披露し、ライブは終了した。


なぜこうも渋い選曲なのか、そしてオリジナルは作れないのだろうか?


疑問に思うことは多々あった。


これから順に確認していかなければな、と津田は心の中で頷く。


「すみませ~ん。写真お願いして良いですか?」


津田が声をかけようと歩きだしたその時、若いOLらしき3人組が彼のもとに駆け寄って行く。


「あ、はい。いいですよ」


彼は右手を伸ばして、女性が手にしているデジタルカメラを受け取ろうとした。


一瞬「?」という空気がその場に流れたが、女性達はすぐに状況を把握し、慌てて解説した。


「えっと、そうじゃなくてですね…」

「あ、あの、シャッターを押して欲しいんじゃなくて、私達と一緒に写ってもらいたいんですけど……」
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