死が二人を分かつまで
しかしそういう考えを持てるのは、社会に慣れ、自分の力で生きて行く自信が備わった39歳の今だからこそである。


あの時、とてもそんな覚悟が持てたとは、進藤には思えなかった。


理不尽な怒りを抱き、取り乱し、小夜子に対して余計な事を口走ってしまったかもしれない。


いや、口には出さなくとも、一瞬でもそういう考えが浮かんでしまったら、きっと小夜子は感じ取った事だろう。


そんな進藤の姿を、身勝手で最低な男の姿を見たくなくて、何も言わずに身を引いたのかもしれない。


年上とは言っても、小夜子自身、まだたったの24歳だった。


どれだけ心細かっただろう。


どれだけ辛かっただろう。


たった一人で苦労させて、幸せにできないまま、逝かせてしまった。


進藤は泣いた。


彼は何も知らなかった。


しかし、彼にとって、そんな事は何の言い訳にもなりはしなかった。


自分の無知が、若さが、弱さが、小夜子に真実を告げる事を躊躇させたのだ。


色々な人が傷ついて、苦しむ結果を招いたのだと、進藤は痛感した。


もっと早く気がついても良かった。
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