死が二人を分かつまで
「違います。僕は、僕は……」

「だったら、俺を納得させてくれ」


思わず後退したさとしの肩を掴み、強引に自分の方に引き寄せると、進藤は懇願するように言葉を吐き出した。


「一人の男として好きだと、言ってくれよ……」


「言えません…」

「言えよ!」

「言えません!」


さとしはとうとう泣き出した。


「僕だって、いい加減な気持ちで、あんな事したんじゃありません」


零れ落ちる涙を拭う事もせずに、鳴咽混じりに言葉を繋ぐ。


「忘れるなんて、嘘です。この気持ちは、きっと一生心に刻まれている」


「だったら…」
「でも、ダメなんです!」


進藤の言葉を無理矢理断ち切るように、さとしは叫んだ。


「忘れたふりをしなくちゃダメなんですっ。だって、だって……」


彼の、濡れそぼる瞳に映し出された自分の姿に、進藤はギクリとした。


慌てて視線を逸らそうとしたが、間に合わなかった。


「だって、あなたは僕の………お父さん、なんでしょう?」


その瞬間、進藤の心を覆っていた最後の砦が無残に砕け散った。


今まで必死に避けてきたキーワードを、再び受け止めなくてはならなくなったからだ。


しかもよりによって、さとしの口から突き付けられる羽目になるとは……。
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