死が二人を分かつまで
夜明け
広と知子が病院に到着した。
甥が事故に遭ったというだけでも一大事であるのに、二人にとって、さらに度肝を抜かれる出来事が待っていた。
「逆行性健忘?」
「ええ。一般的には『記憶喪失』と呼ばれている症状の事です」
さとしの担当医はその内容の重大さを感じさせない、淡々とした口調で言葉を繋いだ。
皆病室から、診察室へと移動していた。
広と知子はもちろん、なりゆきで津田と進藤も病状説明を受けている。
「脳に強い衝撃を受けると、稀に記憶の一部が抜け落ちる事があります。言わずもがなで、今回の事故が原因だと思われますが」
「そんな……。小説やドラマみたいな事が、本当にあるなんて…」
「いや。その解釈は、根本的に間違えています」
知子の呟きに、すかさず医師が反応した。
「実際にある事だからこそ、小説やドラマの題材に使われるんですよ」
「……どれくらいで思い出すものなんですか?」
津田が問い掛ける。
「分かりません」
「え?」
「すぐに思い出すかもしれないし、記憶を取り戻せないままに、一生を終えるかもしれません」