死が二人を分かつまで
その返しに、全員思わず絶句した。


「医者のくせに、随分いい加減だと思われますか?」


それぞれが抱いたであろう思いを代弁しつつ、医師はその場を和ませるように笑みを浮かべる。


「しかし、人の体や心というのは本当に不思議なものです。我々医療に携わる者でさえ、いまだに分からない事、驚かされる事が、多々あるのです」


さらに医師は続けた。


「もちろん、小谷さんの体力が回復したら、もっと詳しい問診や必要な検査など行っていきましょう」


その言葉を受け、知子が何度も大きく頷く。


「一つ、注意していただきたいのですが、無理に思い出させようとしたり、反対に、腫れ物に触るような対応をするのは止めて下さい。日常生活の中で自然に過去の思い出に触れさせて、記憶が取り戻せるよう、皆さんでフォローしてあげて下さい」


それが締めの言葉となり、心の整理がつかないまま、再び進藤達はさとしの病室へと戻った。


進藤は広と知子の前に姿勢を正して立つと、腰を折りつつ、改めて謝罪した。


「この度は私のせいでさとし君に怪我を負わせてしまって、大変申し訳ない事をいたしました」
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