死が二人を分かつまで
箸の持ち方も美しい。


誰かと一緒にいて会話が続かないと、とても気詰まりな雰囲気になるものだが、さとしとはまったくそうならなかった。


むしろ、一人の時よりリラックスできているような感じで、進藤はそんな自分に驚く。


支払いの段になり、進藤が二人分払おうと財布を出している間に、さとしは自分の分を素早くレジに置いた。


「ごちそうさまでした。おいしかったです」


そして爽やかに店員に声をかける。


おっとりしているかと思いきや、必要な場面では俊敏に動くさとしを見て、進藤は改めて彼の育ちの良さを感じた。


店を出て、同じ方向に歩き出す。


夜空には満月が見えた。


あの星ではウサギによく似た宇宙人が餅をついているらしいが、残念ながら進藤は一度も目にしたことがない。


何だか、いつまでもそのまま一緒に歩いて行くような錯覚を覚えたが、この前と同じ場所で二人は立ち止まった。


「じゃあここで」

「はい。今日はとても楽しかったです。お休みなさい、進藤さん」

「あぁ、お休み」


お互い別れの挨拶を口にして、歩き出す。


いつもの帰り道。



しばらく歩いてから、進藤はふと思った。


「お休み」という言葉を発したのは、一体何年ぶりくらいの事だろうかと。
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