死が二人を分かつまで
「ち、ちょっと、さとし君どこ行くの!?」

「え?」

「『え?』じゃなくて、これから話を聞かせてもらえるんだよね?まさか自分をスカウトした奴の顔を忘れたわけじゃないでしょ?」


ジョークで言ったつもりだった。


しかし、彼からは驚くべき答えが返ってきたのである。


「えっ?僕、スカウトされたんですか!?」


津田はあんぐりと口を開けてしまった。


「スカウトされたんですかって……。身分を明かして名刺も渡したじゃないか」

「自己紹介されたのかと思いました……」


その言葉に、津田は昭和の芸人ばりにズッコケた。


「は、話を聞かせて欲しいって言ったら、今日を指定したよね……?」

「はい。火曜日ならたいていここに来るから。他のストリートミュージシャンの方は演奏の合間に気のきいたお話をなさってますけど、僕はそういうのは苦手なので、ご期待には添えそうにないですけど」

「いや、話ってのはそういうことじゃなくて……」


ようするに、通りすがりのサラリーマンが自分のファンになってくれて、今度いつライブをするのか確認してきたのだと思ったらしい。


他の事務所に所属しているかの確認にああいう返事をしたのは、今から思えば「どこかの事務所に勤めてないか?」という意味に捉らえたからに違いない。
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