死が二人を分かつまで
「じゃあ、改めてお願いするよ。小谷さとし君、君をスカウトに来ました。ぜひ、タグチプロダクションに入ってもらいたい」

「でも……僕なんかで本当に良いんですか?」

「もちろんだよ」


ここまで来れば落とせたも同然だな、と津田は内心ほくそ笑んだ。


まったく、一時はどうなることかと思ったが……。


「あ、でも、ご両親にも挨拶しに行かなくちゃね」

「えっ?」


さとしが驚いた様子で津田を見る。


「そりゃそうでしょ。特殊な世界に入ってもらうんだから」


さとしは突然、難しい顔をして黙り込んだ。


しかし津田には察しがついた。


きっと、家族には音楽活動を反対されているのだろう。


こういうことは良くあることだ。


長年夢みていたことでも、話が具体的になってくると、誰でも不安が大きくなる。


そのうえ、周りがその夢に理解がなかった場合、それに向き合うことに尻込みしてしまったりするものだ。


「あ」


しばらく無言だったさとしが、窓の外を見た。


何かに気付いたように声をあげる。


「どうかした?」

「す、すみません。ちょっと、待っててもらって良いですか?」

「あ、おい!さとし君!?」


津田の言葉も耳に入らない様子で、さとしは店の出入口に向かって駆けていく。


そんな彼を、コーヒーを運んできたウエートレスが驚きながら目で追った。
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