死が二人を分かつまで
バンソウコウまで貼り終わり厨房に戻ると、床は綺麗になっていた。


小夜子の姿を探し、厨房とカウンターを繋ぐ出入口からそっとホールを覗く。


進藤はいつも自分のやるべき事が一段落すると、さりげなくそこに立ってステージを見学していた。


案の定、小夜子が歌い始める所であった。


さほど大きな店ではない。

カウンター席と、4人掛けの、3つのテーブル席があるだけだ。


そこより一段高くなった場所がステージになっていて、立派なグランドピアノが置いてある。


かなり狭苦しい印象だが、しかし、ステージを楽しみにしている客には、むしろその距離感がたまらないらしい。


「それではリクエストいただきました『―――――』聞いて下さい」


その歌は毎日のように歌われていた。


小夜子自身が好きな歌で、それを知っている常連客がたびたびリクエストするからだ。


伴奏を担当しているピアニストの丸山毅は180センチ以上の長身で、一見細身ではあるが付くべき場所に筋肉が付いている事は服の上からでも確認できた。


その体躯に加え、上品で彫りの深い顔立ちの、すこぶる見映えの良い男だった。


マスターと同じ40才らしかったが、とてもその年代には見えない若々しさだった。
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