死が二人を分かつまで
マスターの憤慨した声が聞こえてくる。


「ご、ごめんよ~。あいつには、後でよく言って聞かせるから」


客に対してずいぶんな言い方であるが、相手は怒るどころか、だいぶ恐縮しているようである。


そのやり取りを耳で捉えつつ、グラスに水を注いで小夜子の元へと持って行く。


「ありがとう…」


彼女は弱々しくグラスに口をつけて水を含むと、こくりと喉を鳴らして飲み込んだ。


「大丈夫?」

「うん…。大丈夫。ちょっと、貧血っぽくなっちゃって…。だいぶ落ち着いてきた」


小夜子の顔を見守っていると、ピアノの音が聞こえてきた。


演奏が再開されたらしい。


きっとあの客は摘み出されたのだろう。


「大丈夫か?小夜ちゃん」


ほどなくしてマスターが厨房に姿を現した。


「今日はもう良いからさ、帰りなよ」

「でも…」

「いいっていいって。ていうか、そんな青い顔して歌われてたら客がシラけちゃうからさ」


冷たいようだが、おそらく小夜子に気を使わせないように、あえてそういう言い方をしたのだろう。

顔は恐いが、マスターは悪い人間ではない。
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