アンダーホッパー
「さて…」

アスファルトに転がる首を見下ろしながら、細身の男は乱れたスーツの上着をただしていた。

「スパイは処理しましたが…」

上着の内ポケットから、携帯を取りだし、画面に映る被写体を見つめた。

「この実験体の目撃情報があったのは、この辺りですね」

男はため息をつくと、携帯をポケットの中に戻し、

「今さら、こんなものに価値があるとは思えませんが」

空を見上げた。

「仕方がありません」

すると、男の周りに空から、人が数人降ってきた。

「探しなさい」

男がそれだけ言うと、取り囲む人達は頷き、その場から消えた。




「ううう…」

闇の中で、膝を抱えるものが嗚咽した瞬間、彼の頭に声が響いた。

(逃げろ!)

この声に、彼は立ち上がった。

今の言葉は、彼に向けられたものでなかった。

数十年前から、時折頭に響いていた。

最初は戸惑ったが、その声は複数種類あり、常に何かと戦っている感じがしていた。

彼は、その声が聞こえると遠くに逃げていた。

常に戦っている声達に、今の自分が否定されているように思えたからだ。

しかし、逃げてながらも彼自身は気付いていないが、その声が聞こえ続けるからこそ、何とか正気を保つことができていたのであった。

逃げている間にいつのまにか…夜が明けた。

彼は足を止めると、目を細め、再び光が届かない場所を探して歩き出した。
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