恋色カフェ
従業員口から外に出れば、ジメリとした空気がまとわりつく。酷い湿気と澱んだ雲が、辺りを埋め尽くしている。
早く家に帰ろう。いや、やっぱり買い物にでも行こうかな。万が一の時は、折りたたみ傘も持ってるし。
今1人で家に居たら、きっと、ロクなことを考えない。
よし、と。帰宅する時とは逆の方向に一歩足を踏み出した──その時。
「──お疲れ」
その声は私の真後ろから聞こえた。
「久しぶり」
──振り向かなければ良かった。
その声の主が誰なのか忘れてさえいなければ、きっと振り向かなかった、のに。
「……秀人」
「良かった」
「……」
「元気そうで。メールの返事なかったからさ」